日本遺伝看護学会は遺伝看護サービスのありかたとその質的向上について考えています

ニュースレター No.6 2002年5月13日

桜前線があっという間に北上してゆき、新緑のまぶしい季節となってまいりましたが、まだまだ肌寒い日もみられその日その日の様子を伺いながら過ごす 毎日です。「遺伝医療・看護」も刻々と変化を遂げております。今回も各地で開催されております講演会や勉強会の様子をお届けしたいと思います。

第16回日本助産学会学術集会


2002年3月14日,15日 場所:聖路加看護大学

報告者:広島大学医学部保健学科 中込さと子

第16回日本助産学会学術集会では,2日目に10テーマのワークショップが開かれ,そのうちの1つに「周産期における遺伝看護」がありました。会場一杯にこのテーマに関心を持つ助産師が集まり活発な事例検討ができました。

 話題提供者は山梨医科大学医学部附属病院小田切智子さんと私,そして杏林大学医学部附属病院総合周産期母子医療センター木下千鶴さんでした。染色 体異常を持って生まれてくるお子さんとご両親にとってのわずかな時間をどのように過ごすのか,また,我が子の異常を知るプロセスでご両親と生まれてくるお 子さんとの関係性をどのように支えるのか,さらにこれらの課題に含まれている人々の人権の擁護について活発に議論されました。

 遺伝看護研究会では定例で事例検討会を開いていることもあり,研究会のメンバー自ら積極的に発言してくださり,ワークショップ全体の盛り上がりに一役かってくださいました。また,専門領域の者同志の深い討論ができました。

 

「遺伝とカウンセリング-その現状と未来-」のシンポジウムを主催して


熊本大学生命倫理研究会遺伝子診療グループ
熊本大学医療技術短期大学部看護学科
柊中智恵子

シンポジウムの目的


さる平成14年3月23日、熊本大学生命倫理研究会遺伝子診療グループ主催によるシンポジウムを開催しました。私はこのグループのメンバーであるため、シンポジウムの企画・運営を担当しました。

皆様もご周知のとおり、今日、遺伝医療の急速な進展にともない、これに対応するケア、とりわけ遺伝カウンセリングのニーズが高まっています。また、 医療の現場では、そのようなニーズに応えるための体制を整備していくことが求められています。そこで、今回のシンポジウムでは、いち早く「遺伝子診療部」 を設置した信州大学の取り組みや、重い遺伝病の患者や家族が置かれた状況について学ぶとともに、熊本大学における遺伝医療やカウンセリングの状況を知り、 これからの遺伝医療には何が求められるのか、その未来について考えることを目的に開催いたしました。

参加者


 参加者の内訳は、医師25名、看護師15名、保健師3名、助産師4名、薬剤師2名、臨床検査技師7名、臨床心理士1名、生命倫理研究者・教育者4名、文学部大学院生2名、熊本大学医療技術短期大学部学生11名、マスコミ関係者3名の計77名でした。

シンポジストと講演内容


 司会は松田一郎先生(生命倫理研究会初代世話人、熊本大学名誉教授、人類遺伝学会理事長)にお願いしました。福嶋義光先生(信州大学医学部附属病 院遺伝子診療部部長)は、「遺伝子診療部の取り組み」と題して、1996年に国内で初めて遺伝子診療部を開設され、現在ではカウンセリング希望者を専門医 と看護師・臨床心理士の三人で面談し、診断後も定期的なフォローをしていること等の信州大学のシステムをご紹介されました。また、主に癌のカウンセリング について講演されました。医師だけでなく、看護師や臨床心理士等複数で面談することのメリットを挙げられました。(面談で聞きにくかった質問が相談者から 出る)廊下での立ち話が役に立ったという言葉が印象的でした。

 武藤香織先生(厚生省リサーチレジデント・北里大学医学部医学原論研究部門非常勤講師、H14年4月より信州大学医療技術短期大学部講師)は、 「重い遺伝病の患者とその家族がおかれている状況」と題して、ご自身が立ち上げられた日本ハンチントンネットワークの活動を取り上げ、患者・家族を取り巻 く現状を多彩な方面から紹介されました。長期療養病棟がないことや、診療報酬制度の不備等を指摘され、治療法のない遺伝性疾患において遺伝子診断だけが論 議されることを疑問視するご講演がありました。

 遠藤文夫先生(熊本大学医学部小児科学教室教授)は、「熊本大学の状況―小児領域を中心に―」と題して、熊本大学で取り組み始めた医療カウンセリング室の概要と小児科における遺伝相談の実際についてご講演されました。

 安東由喜雄先生(熊本大学医学部臨床検査医学講師)は、「神経難病の遺伝医療―FAPを中心にして―」と題して、FAPの診療および肝臓移植の現状と倫理的問題についてご講演いただきました。

終了後のアンケートの結果から


 アンケートの回収率26%。シンポジウムに対する意見・感想として、「遺伝医療とカウンセリングの現状について理解が深まり有意義でした。」「多 方面からのレクチャーやディスカッションがあり役に立った。」「大変難しい問題、結論の出ない問題まで出てきて、随分考えさせられました。」「行政の支援 を知らないとの答えの多さに、どうしたら政策が手元に届き、有効に活かされることができるのか考えたい。」等、シンポジウムに参加して有意義だったという と好意的な意見をいただくことができ、出発点としてはまずますではなかったかと思いました。

今後に残された課題


 アンケートに比較的好意的な意見が寄せられた一方で、今回のシンポジストが医師に偏っていたのは事実です。本来のチーム医療を考えると、今後は看護職や心理職の機能も活かせるような企画を行いたいと考えています。

 今回のシンポジウムは、熊本県および熊本大学における遺伝カウンセリングを考えるための第一歩でしかありません。今後どのような形で、医療現場の中に組み入れていくことができるのか、これからの大きな課題だと考えています。

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生命倫理研究会の紹介


 熊本大学学内共同研究プロジェクトのひとつとして、1997年に熊本大学生命倫理研究会は発足しました。研究会のメンバーは自然科学・人文社会科 学を問わず生命倫理に関係する分野の研究者と学外からの参加者によって構成されています。現在では、遺伝子診療グループの他、水俣病グループ・終末期医療 グループ・臨床試験検証グループ等4つのグループがそれぞれの持ち味で活動を展開しています。ご興味のある人は、熊本大学のHPからも研究会のHPにアク セスできますので、ご覧いただけますと幸いです。

 

米国の遺伝カウンセラー、Barbara Biesecker氏の講演に参加して


その1  慶應義塾大学看護医療学部 武田祐子


 3月に米国の遺伝カウンセラー、Barbara Biesecker氏が厚生科学研究費「遺伝カウンセリングの体制の構築に関する研究」(古山班)の外国人招聘事業で来日され、関東・関西に於いて講演会 が開催されました。Biesecker氏は、NIHの遺伝カウンセリング過程のプログラムディレクターであり、現在ジョンズ・ホプキンス大学と米国ヒトゲ ノム研究所で遺伝カウンセリング修士課程に留学中の田村智英子さんの指導をされている方です。

私が参加した2回の講演についてご報告します。最初の講演会は3月19日に国立成育医療センターで行なわれ、タイトルは”Goals of Genetic Counseling: Unexpected versus Anticipated News and Parental Adaptation" でした。

「遺伝カウンセリングのゴール」についてはコンセンサスが得られている訳ではなく、プロセススタディ等、研究の必要性が示されました。カウンセリン グの目的として、精神的苦痛が軽減して自己コントロールできるようになることは大切であり、カウンセリング効果の測定可能な指標として、self control、self-esteem、resilience等が挙げられました。1974年に示されたASHG(米国人類遺伝学会)の遺伝カウンセリ ングの定義は時代遅れであり、より心理・教育的なプロセスとしての定義を紹介されました。科学的説明はそれだけでは意味を持たず、クライエントが自分なり に意味付けができて、適応していくことの重要性が強調されました。

3月22日の経団連会館では、"Informational, Emotional and Social Needs of Genetics:Clients in the New Era of Genetic Medicine ”と題して、新しい遺伝医療の中ではリスクインフォメーションやリスクアセスメントが発症前診断や出生前診断につなげられるようになり、様々な意思決定が 必要となることからインフォームドコンセントが重要であることが話されました。疾患による予防法・治療法の有無、リスクの感じ方の違い、確率予測など抽象 的概念の理解の困難性などが、それぞれの受け止め方に影響してくることが示されました。発症前の遺伝子情報は、発症リスク減少の動機づけとなり、日常生活 行動の変容につながるということについて例をあげて話されました。

また、社会的なスティグマについても触れ、血縁者への遺伝情報開示、成人発症の子供の検査、出生前診断については、倫理的課題として取り組んでいくことの必要性を提示されました。

 2回の講演を通して、遺伝カウンセリングの臨床と研究の実際に触れることができました。また、質疑応答で「長期のフォローアップやその評価」につ いての質問が出され、そのことについては遺伝カウンセラーが実際に関わる機会は少なく、長期の評価についてはこれからの課題であることがわかりました。米 国での経験から学びつつも、新しい遺伝医療における課題については共に追究していくことの重要性を強く感じました。

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その2   聖路加看護大学 有森 直子


私が,参加した講演は,3月19日の国立成育医療センター(武田さんとご一緒でした),3月25日 大阪府立看護大学にて開催された,タイトル“遺伝カウンセリングの教育”の2つです。

 3月19日の講演では,対象のレディネスにより介入が異なってくるという視点からの内容が印象的でした。すなわち,1.予期しない不意の出来事であ るために本人の準備状態が十分ではないために,積極的には情報を求めない時(例えば,出生前診断等),2.ある程度の予測があって情報を求めてきている時 (例 子どもが脆弱X症候群であり、その原因を探りに来院した時),3.個人的にかなりの知識を持っていて,積極的に情報を求める時(例:乳がんのサバイ バーの方の来院)。重要なことは,患者の状況をよく理解することであるということを強調されていました。

 3月25日の講演では,米国における遺伝カウンセラーの教育についての講演でした。看護大学での開催であり,それまでの講演に比べて看護職の方が多く参加されていました。

特に,カウンセリングの理論について事例をあげて説明されました。実習時間は、450時間、50例のケースを受け持ち週に8時間のスーパービジョン をうけるそうです。数あるカウンセリング理論の中で12の理論を中心に教えているとのことでした。今回は,その中の3つロジャースのクライエント中心療 法,認知療法理論,家族カウンセリング理論について,説明されました。看護においては,「療法」という言葉は用いませんが,共通したことを日々のケアの中 で実践しているのではないかと思います。私達看護職は,日々の実践を他の職種の方にもわかる言葉で,説明できる力をつけなければならないことを痛感しまし た。

 今回の講演に参加して,米国での遺伝カウンセリングの現状を具体的に理解できたことはとても大きな収穫でした。今回の内容について,遺伝医療に関わる他職種の方々とも意見交換ができたらと思いました。

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第13回 公開学習会 in 聖路加看護大学


テーマ;信州大学病院遺伝子診療部における看護職の役割と他職種間連携のあり方

-羊水検査により染色体異常が判明した妊婦への関わりを通して-

報告者;山下 浩美(信州大学医学部付属病院遺伝子診療部)

「いい雰囲気を醸し出す看護職」


上條 陽子(長野県看護大学)

4月6日というのに東京の桜はとうに散り、すでに初夏を思わせるような中、第13回公開学習会が聖路加看護大学で行われました。今回は信州大学医学 部附属病院遺伝子診療部の看護師山下浩美さんから「看護職の役割と他職種間連携のあり方」というテーマで、遺伝子診療部とそこでの取り組みが紹介され、そ の後事例を用いて、活発な意見交換が行われました。3年前まで私も同病院に助産婦として勤務しておりましたが、当時はまだ遺伝子診療部は設置されていませ んでした。昨今の遺伝子診療部の活動状況を聞くたびに、そこでの看護職の存在について関心を持ってきました。また山下さんとは同期就職ということもあっ て、とても楽しみに出かけました。

 今回の事例は、遺伝子診療部に紹介があった時点で「1回だけの面接になる可能性が高い」という妊婦とその家族というケースでありました。そこで山 下さんは、妊婦が遺伝子診療部を受診するまでの間に、いかに妊婦と関係を作ることができるかが大切と考え、事前に電話訪問をしたということでした。電話で 受診の目的やそれまでの経緯、現在の心境をお聞きし、それをふまえて当日面接が行われました。さらに診察後のフォローとしては、数週後に一度電話をかけ、 その後の様子を伺っていました。遺伝子診療部に来院するクライアントの中でも、特に出生前診断された妊婦がクライアントである場合は時間的猶予がないこと が多く、医療者としては対応に苦慮すると感じられました。また今回の学習会を通して、看護職の関わりやクライアントとの関係の取り方、他職種との情報交換 の必要性など多くの示唆を得ることができました。

 ここ最近、事例検討の大切さを強く感じるようになりました。この学習会には、いろいろな職種の方が参加されています。自分の領域以外のことがテー マになることもありますが、あまり知らないからこそ聞ける素朴な質問をぶつけることもできますし、それを可能してくれる雰囲気もあります。おそらく“場の 雰囲気”というものは臨床の中でも非常に大切なことだと考えます。それを醸し出すのは私たち医療者の持つ人間性でもあると思いますし、報告者の山下さんか らも“いい雰囲気”を感じました。今後も事例検討会を重ねつつ、深みのある人間となれるよう努力していきたいと考えています。

 

学会・セミナー情報


今後開催されます学会・研究会・セミナーについての情報を下記に掲載しますので、ご参加ください。詳細に関しましては事務局にお問い合わせ下さい。

日本遺伝カウンセリング学会 第26回大会


日時:5月23(木)・24日(金)
会場:県立長崎シーボルト大学本部棟
   大講義室
参加費:8000円
事務局:県立長崎シーボルト大学看護学科
    Tel・Fax 095-813-5183
プログラム:
1. 会長講演「原爆による遺伝的影響」
貞森直樹(県立長崎シーボルト大学看護学部)
2. 特別講演「Genetic Counseling in the
United States in the New Millenium」 
Fuki M HISAMA(米国エール大学医学部助教授)
3. 会長指定講演1
「出生前診断;30年を振り返って」
斉藤仲道(新古賀病院産婦人科)
4. 会長指定講演2
「重症心身障害児(者)における療育」
馬場輝実子(国立療養所長崎病院)
  公開講座:5月24日18:00-20:30
『 ヒトゲノム・遺伝子・染色体検査の倫理規定』
上記、特別講演以外にも、遺伝看護研究会のメンバーの方やその他医療職・看護職の方々による一般演題の発表もあります。

遺伝相談医師・コメディカル再教育研修会


「マルファン症侯群の遺伝カウンセリング」

当事者団体であるMNJの方々の参加を得て、「マルファン症候群」を当事者の方々を加えた討論を予定している。
日時:6月22日(土)・23日(日)
場所:主婦会館プラザエフ8階スイセン
対象:60名(遺伝相談セミナー:上級コース修了者及びカウンセリングに関心のある方)
参加費:21,000円
主催:日本家族計画協会遺伝相談センター
後援:日本遺伝カウンセリング学会
事務局:日本家族計画協会 遺伝相談センター
Tel 03-3267-2600 Fax 03-3267-6294

第28回 コメディカルのための
遺伝相談セミナー(初級コース)


遺伝をめぐる多様な問題を受け止め、悩みに耳を傾け、少しでも当事者のQOLの向上に寄与できるような人材、施設を増やすことを目的とした講習会です。
日時:8月1日(木)-4日(日)
   AM 9:00 - PM 5:00
場所:飯田橋レインボービル2階中会議室
定員:80名(遺伝に関心のある方)
受講料:42,000円
主催:社団法人 日本家族計画協会
後援:日本カウンセリング学会
事務局:日本家族計画協会 遺伝相談センター
Tel 03-3267-2600 Fax 03-3267-2658

事務局からのお知らせ


1.夏季公開学習会の開催について
毎年恒例となっております地方での公開学習会を今年度は、長野で行います。現在、プログラムの調整を行っております。次回のニュースレターで詳細についてはお知らせしたいと思います。
○開催日:9月29日(日)
○場所:長野県立こども病院(長野県豊科)  
前日28日には、遺伝性疾患に関する甲信越・北陸出生前診断研究会が開かれますので、合わせてご参加ください。
2.ホームページの開設について
 日本遺伝看護研究会のホームページが4月より開設いたしました。ご覧ください。
http://idenkang.umin.ne.jp/

【編集後記】


 今回もたくさんの方から情報やご感想をお寄せいただき、予定していた紙面を超えるニュースレターとなりました。読み応えのある内容だったのではないでしょうか。次回は、8月を予定しております。
 


 

日本遺伝看護研究会ニュースレター No.6 2002年5月13日
事務局:東京都中央区明石町
聖路加看護大学内
Genetic Nursing Committee in Japan