日本遺伝看護学会は遺伝看護サービスのありかたとその質的向上について考えています

ニュースレター No.1 2000年4月28日

ニュースレターの創刊にあたって


研究会会長 安藤広子

ヒトゲノム解析プロジェクトが10年ほど前から、米国、欧州、日本が国家予算をつぎ込んで共同で進められているのは、皆様もご承知であると思いま す。このプロジェクトより早く、米国のバイオテクノロジー・ベンチャー企業のセレーラ・ジェノミックス社(メリーランド州)が、5人の遺伝子を使って解読 作業を進めていたうちの1人について今月の6日に完了した、と発表しました。

このことは、医学や生物学、生化学などといった領域ばかりではなく、経済、情報、法律、政治など多方面への社会的影響をもたらすことになるであろうと推測されます。

看護職は、これまでも地域保健の中で「遺伝相談」に深く関わり、クライエントや家族への支援を行ってきました。 しかし、急速な発展をとげている遺伝医療やそれを取り巻く社会環境において、これまでの看護職の役割とは異なる新たな視点の必要性に迫られています。遺伝 看護実践の場が、地域保健施設、医療・福祉施設、医療関連企業・研究所、公共教育関連施設など範囲を拡大していく必要があります。また、遺伝という特殊性 から、保健婦(士)・助産婦・看護婦(士)といった看護の職種を超えて、ケア提供のあり方について検討されていく必要があろうと思います。ケアの内容やケ ア提供の方法については、遺伝医療に関連する他職種のメンバーと共同での検討を行いながら、看護の専門的役割を果たしていかなければならないと考えます。

このように遺伝子医療にとって新しい局面を迎えている時期に、日本遺伝看護研究会のニュースレターの創刊は、意義深いものと考えると同時に、役割期待への 責任を大きく感じます。私共の研究会は、先天性・遺伝性疾患患者へのケアに関心をもつ保健婦・助産婦・看護婦が集まって研究会を発足して1年余りであり、 事例検討を中心とした公開学習会(隔月開催)も3回と、遺伝看護のあり方を模索しながら歩き始めたところです。研究会の活動の一環であるこのニュースレ ターにより、遺伝看護についてのケア実践・教育・研究に関する情報や、遺伝医療、その他の遺伝に関連する情報を共有しあい、できれば意見交換の場にまで発 展させ、より社会のニーズに即したケア提供をめざしていきたいと考えています。

多くの皆様の情報提供やご意見などをお寄せいただきたいと思います。

 

発足からの活動


東海大学健康科学部 溝口満子

聖路加看護大学において平成11年2月25日第一回の会合を開き、医師1名を含む14人が発起人として名前を連ねました。以来、今日までの活動の概況を表に示しました。

まず名称を「遺伝に関する看護を考える会」とし、活動は遺伝問題の事例をもとに学習することから始めることになりましたが、遺伝看護セミナーの開催 に伴い、「・・・考える会」は本会の名称として相応しくないと考え、夏に現在の「遺伝看護研究会」に改めました。またセミナーに招聘された米国の講師と連 絡をするのに英文の表記も必要になり、Genetic Nursing Committee in Japan (GNCJ) としました。

本会の目的や事業は会則にうたってありますが、その表中から今年度行った活動について紹介したいと思います。 

発足からの活動経過

定例会 内容
第1回 H11/2/25 発起人会
名称「遺伝に関する看護を考える会」とする
第2回 H11/4/10 事例:出生前検査後に遺伝相談を受けた妊婦の意思決定
第3回 H11/5/12 事例:妊娠中に胎児に予想外の出来事があった中で出産した女性の体験から
第4回 H11/8/21 盛岡で宿泊研修
会の名称を「遺伝看護研究会」に変更
第5回 H11/10/2 遺伝看護セミナー開催の準備
遺伝看護セミナー
H11/11/6-11/7
東京カンダパンセホール
現代の遺伝医療の中で看護が果たす役割を考える
第6回 H11/12/11 セミナーの評価、情報交換
第7回 H12/1/20 会則の承認、学習会を公開にする
第8回 H12/2/19 事例:超音波検査により児の異常がわかり出産した母親とのかかわり
第9回 H12/3/18 事例:13トリソミー児を出産した女性の場合
第10回 H12/4/9 米国の遺伝カウンセリング

 

看護職の遺伝サービスに関する能力の向上に関する事業

  1. 定例学習会

     これまでに公開学習会も含めて5回行いました。うち1回は夏季宿泊研修で、盛岡保健所遺伝相談医をしていらっしゃる岩手県立都南の園小児科医川村みや子 先生、静岡県立こども病院遺伝染色体科の長谷川知子先生を講師に染色体異常について学習をしました。事例学習は4回、いずれも母性・小児領域の事例でし た。現段階では看護職が遺伝相談まで行っている人がいないので、なかなか関わりの検討にはいたりませんが、疾患の理解、クライアントや家族の持つ問題の理 解を通して看護職としてどのような関わりができるかを学んでいます。今年の3月からは会員でない人も参加できる公開学習会にし、2ヶ月に1回くらいの割合 で学習会を計画しています。経験豊富な医師も参加していらっしゃいますので、医学的見地からの学びも大いにあります。どんな事例でもよいので提供して下さ る方は特に、また遺伝看護に関心のある方の参加を歓迎します。
  2. 遺伝看護セミナーの開催

    「国際治療研究所」より海外の講師を招聘してセミナーを開催するなら援助をしたいと申し出があり、発足したばかりの私たちにはかなりの冒険でしたが、「遺 伝看護」を看護職やその他の医療職の方々に知っていただくよいチャンスになると無理を承知で開催する事を決意しました。東京と大阪で11月開催に向けて動 き出したのは既に6月になっており、みんなで智恵を出し合い、プログラム案を作り、それに沿って講師が決まった時は、もう8月でした。講師の事務手続きや 会場の確保、ちらしの作成は全て「国際治療研究所」が引き受けて下さいました。それから会員一丸になって参加の呼びかけを行いましたが、大阪での開催は中 止する事になり、参加を希望された方にはご迷惑をおかけしました。ともあれ、11月6,7日、神田パンセで100名の参加者とともに、講師の先生方の素晴 らしいプレゼンテーションのお陰で有意義なセミナーになりました。このセミナーの概要は、「看護技術」本年3月号46(4) p71-78に掲載されましたのでご覧下さい。それにしても一人の力は小さいものですが、志を持って集まれば、信じられないようなことが可能になることを 実感いたしました。

看護職,関連ある職種並びに遺伝サービスを必要とする人々との情報交換・相互理解のための交流推進

  1. 日本臨床遺伝学会や厚生省科学研究費補助金(子供家庭総合研究事業)「遺伝システムの構築と運用に関する研究」班などにおける、遺伝カウンセ ラー認定に関する討議内容の情報を参加しているメンバーから情報を得て、会としてこれらの討議に正式メンバーとして加われるように要望書を会長名でそれぞ れの関係者に送りました。
  2. 個人が参加している患者会やその関連の会に参加をした場合、情報を共有してきましたが、今後はニュースレターを通して行えると思います。

国際交流の推進

 米国に本拠がある国際遺伝看護学会 International Society of Nurses in Genetics ISONG に本会の会長をはじめ、数人のメンバーが加入していますので、常にインターネットを通して遺伝看護に関する最新の情報が入ってきます。毎年行われる学会に は参加をし、昨年サンフランシスコでは本会からも有森、溝口がポスター発表を行いました。11月の遺伝看護セミナーにおける2名の講師もISONGからの 派遣によるものでした。またISONGの人的ネットを活用していくつかの訪問交流が実現しました。これまでにイギリス、アメリカ、ブラジルのナースたちと の交流が実現しています。またインターネットを介しての交流は、日常的に行われています。また4月9日の定例会では、アメリカの遺伝カウンセラーの口演と 懇話会が行われました。

遺伝サービスの質の向上を図るための研究推進

 現在課題として取り組んでいることは、セミナー講師がプレゼントしてくださった米国のナースが書いた遺伝看護の本 Genetics in Clinical Practice の翻訳です。8月完成を目指してそれぞれが奮闘中です。日本にはまだ遺伝看護の教科書がありませんので、完成が待たれます。その他それぞれが行った研究成 果をいくつか雑誌や学会に発表しています。 以上、本会の1年の歩みを紹介いたしましたが、たった1年、されど1年という重みを感じました。遺伝看護はま だ日本では承認されていない分野です。しかし時代は確実に遺伝をベースにした医療へと進もうとしています。生まれたばかりの会ですが、時代のニーズに応え られるように、ともに切磋琢磨してゆけることを念じております。

 

会則作成にあたって


小笹由香

 看護の様々な領域の中で、遺伝に関して共通して追究していくこと、すなわち遺伝看護における看護職の役割を明確にし、遺伝サービスの質の向上を図 ることが、本会の目的です。従って、それを実現するためには、臨床・教育・研究を通して考えていかなければなりません。また、いずれ国際的な活動、交流も 必要になっていくだろうし、サービスの受け手との対話も大切です。こうした、それぞれのメンバーの熱い思いを元に、ISONG  (International Society of Nursing in Genetics, Inc)の会則を参照しながら、この会則ができました。多少?大変でもありましたが、企画していく喜びを感じた作業でもありました。これから会員が増加す るに当たり、様々なことが改正されていくと思われますが、この研究会の活動を支える、会則の改正に向けて、努力していきたいと思いますので、皆様忌憚のな いご意見をお寄せください。

会則


 記念すべきニュースレター第1号です。「遺伝」をキーワードにさまざまな領域における看護を追究していくことは来るべき21世紀の重要な課題で す。このニュースレターが情報の発信源、意見交換の場から、ネットワークの要へと発展できるように、会員の皆様のご協力をよろしくお願い申し上げま す。(武田祐子)


 

遺伝関係セミナーのお知らせ


第3回癌遺伝カウンセラー(家族性腫瘍カウンセラー)養成セミナー

主催:
家族性腫瘍研究会主催
日時:
2000年8月24日(木)-8月27日(日)
場所・登録料:
兵庫医科大学・35000円
問合せ・連絡先:
〒663-8501兵庫県西宮市武庫川町1番1号
Tel:0798-45-6790 Fax:0798-45-6789
E-mail:fcc@hyo-med.ac.jp
* 詳細についてはホームページをご覧下さい。
http//www.hyo-med.ac.jp/daigaku/senten/kazoku/index.htm

看護婦・保健婦・助産婦などコメディカルのための遺伝相談セミナー

日時:
2000年7月13日(木)-16日(日)
場所:
社会文化会館(東京都千代田区永田町1-8-1)
申込用紙請求先:
〒162-0843東京都新宿区市谷田町 1-10
保健会館新館(社)日本家族計画協会遺伝相談センター
Tel:03-3267-2600 Fax:03-3269-6294

遺伝医学セミナー

日時:
2000年9月8日(金)-10日(日)
場所:
東京ホテル浦島(東京都中央区晴海2-5-23)
問合せ先:
事務局徳島大学医学部公衆衛生学教室)
Tel:088-633-9218・7075 Fax:088-633-9219・7453